富栄養化

富栄養化とは?

富栄養化とは栄養塩(窒素やリン)の過剰な流入により、植物プランクトンが異常に増加し水質が悪化する現象を言います。富栄養化が進行すると、赤潮の発生や海中の酸素濃度が低下する貧酸素化につながります。
陸域の人間活動は沿岸生態系にインパクトを与えており、世界の海洋の41%が複数の要因によって強く影響を受けています[1]。北西太平洋地域(中国、日本、韓国、ロシア極東)の沿岸域は、世界で最も人口密集度の高い地域の一つであり、この大規模な人口が環境に与える圧力と需要は極めて大きいです[2]。海洋における人間活動への一つの反応として、農地や都市からの栄養塩負荷の増加による富栄養化の加速が挙げられます[3]。生活排水や工場・事業所からの排水、農業において使用される肥料等により海域へ流入する栄養塩が増加し海洋環境に及ぼす影響が懸念されています。
富栄養化は、北西太平洋地域における主要な海洋環境問題の一つとされており[4]、多数の赤潮発生[5]や大規模な低酸素状態の形成[6]を引き起こしています。さらに、富栄養化が原因で発生した大量の巨大クラゲ[7]や大規模な緑藻[8]が広範囲に拡散することで、国境を越えた環境問題となる可能性があります。したがって、これらの問題に対処するためには、近隣諸国が協力して共有する環境を保護するための包括的かつ具体的なアクションが必要です。

参考文献

[1] Halpern, B., Walbridge, S., Selkoe, K., Kappel, C., Micheli, F., D’Agrosa, C., Bruno, J., Casey, K., Ebert, C., Fox, H., Fujita, R., Heinemann, D., Lenihan, H., Madin, E., Perry, M., Selig, E., Spalding, M., Steneck, R. and Watson, R.,   “A Global Map of Human Impact on Marine Ecosystems,”  Science 319(5865), 948–952 (2008).
[2] UNEP, “Action Plan for the protection, management and development of the marine and coastal environment of the Northwest Pacific region” NOWPAP Publication No. 1 (1997).
[3] Carpenter, SR, Caraco, NF, Correll, DL, Howarth, RW, Sharpley, AN and Smith, VH., “NONPOINT POLLUTION OF SURFACE WATERS WITH PHOSPHORUS AND NITROGEN,” Ecological Applications 8(3), 559 – 568 (1998).
[4] Shulkin, V.M. and Kachur, A.N. (eds), “State of the Marine Environment Report for the NOWPAP region,” POMRAC. 141 p, (2014).
[5] NOWPAP CEARAC, “Integrated Report on Harmful Algal Blooms for the NOWPAP Region”, (2011).
[6] Wei, H., He, Y., Li, Q., Liu, Z. and Wang, H., “Summer hypoxia adjacent to the Changjiang Estuary,” Journal of Marine Systems 67(3-4), 292–303 (2007).
[7] Xu, Y., Ishizaka, J., Yamaguchi, H., Siswanto, E. and Wang, S., “Relationships of interannual variability in SST and phytoplankton blooms with giant jellyfish (Nemopilema nomurai) outbreaks in the Yellow Sea and East China Sea,” J Oceanogr 69(5), 511–526 (2013).
[8] Liu, D., Keesing, J. K., Dong, Z., Zhen, Y., Di, B., Shi, Y., Fearns, P. and Shi, P., “Recurrence of the world’s largest green-tide in 2009 in Yellow Sea, China: Porphyra yezoensis aquaculture rafts confirmed as nursery for macroalgal blooms,” Marine Pollution Bulletin 60(9), 1423 – 1432 (2010).

 

CEARACの活動

CEARACは、リモートセンシング技術を活用した富栄養化のモニタリングと評価に注力しています。NOWPAP海域における富栄養化の状況を評価するため、2009年にNOWPAP参加国共通の評価手順書(NOWPAP Common Procedure)を作成しました。この手順書を用いてNOWPAP地域の選定海域において富栄養化状況評価のケーススタディを行い、同時に手順書自体の妥当性も検証しました。その結果、2013年と2015年に改訂版を発行しました。富栄養化評価に関する出版物(英語)については、下記をご参照ください。
また、CEARACは、環境モニタリングツールの開発にも取り組んでいます。2018年には、NOWPAP共通手順書を基盤としたNOWPAP富栄養化評価ツール「NEAT」を開発しました。このツールは、クロロフィルaデータを用いて、現場で取得された水質データと海色リモートセンシングデータを組み合わせて、NOWPAP海域の富栄養化海域を特定します。さらに、2021年には、NEATをベースに地球規模で沿岸富栄養化の可能性(CEP)を評価するオンラインアプリ「Global Eutrophication Watch」を開発し、CEARACのウェブサイトで公開しています。URL: https://eutrophicationwatch.users.earthengine.app/view/global-eutrophication-watch

 
・第4回NOWPAP地域における海洋生物多様性及び富栄養化に関する専門家会合 (2015)
・第3回NOWPAP地域における海洋生物多様性及び富栄養化に関する専門家会合 (2013)
・第2回NOWPAP地域における海洋生物多様性及び富栄養化に関する専門家会合 (2011)
・第1回NOWPAP地域における海洋生物多様性及び富栄養化に関する専門家会合 (2010)
 
・NOWPAP地域の選定海域におけるNOWPAP富栄養化状況評価手順書(改訂版)の適用(2015)
・NOWPAP地域の選定海域における富栄養化状況評価に関するNOWPAP共通手順書の適用 (2014)
・選定海域における富栄養化状況評価ケーススタディ報告書 (2013)
・NOWPAP富栄養化状況評価手順書(NOWPAP共通手順書2013年改訂版)(2013)
・NOWPAP地域の選定海域における富栄養化状況評価に関する統合報告書:NOWPAP富栄養化状況評価手順書の評価 (2011)
・選定海域における富栄養化状況評価ケーススタディ報告書 (2011)
・NOWPAP富栄養化状況評価手順書 (2009)

 

富栄養化は水質低下、貧酸素、生態系バランスの崩壊など環境に様々な影響を与えます。 NPECでは、NOWPAP海域の環境保全活動の一環として、人工衛星を用いて富栄養化の兆候を評価しています。
 
 
Global Eutrophication Watchは、人工衛星に搭載のセンサーが捉えた海色から植物プランクトンの量(クロロフィルa濃度)を推定し、海の表層の富栄養化(貧栄養化)の状況を評価するオンラインツールです。 このツールでは、植物プランクトンの量を「多い・少ない」と「増加・変化なし・減少」を組み合わせた6つの類型に分けています。

詳しい使い方は、地図上の左パネルを見てください。 パネルの一番上で言語(英語、中国語、日本語、韓国語、ロシア語)を選ぶことができます。.

タイトルとURLをコピーしました