Global Eutrophication Watchが「Nature Communications」誌に掲載

Global Eutrophication Watch; 地球規模で沿岸域の富栄養化を評価するツール

要点

  • CEARACでは、ビッグデータ解析プラットフォーム「Google Earth Engine(GEE)」を使って、地球規模で海域の富栄養化の状態を常時評価するアプリを世界で初めて開発しました。
  • このアプリでは、衛星画像から得たクロロフィルa濃度の情報を基に地球全体での海域富栄養化の傾向を示します。
  • また、富栄養化の兆候が見られるエリアや水質が改善しているエリアも検知します。

 

(公財)環日本海環境協力センター(NPEC)の Maúre Elígio de Raús嘱託研究員ならびに寺内元基主任研究員、名古屋大学宇宙地球環境研究所の石坂丞二教授、Google LLC のメンバ ー(Dr. Nicholas Clinton and Michael DeWitt)を入れた共同研究チームは、衛星データから富栄養化を評価する「Global Eutrophication Watch」を開発し、地球規模で沿岸域の富栄養化の状態をマッピングすることに成功しました。https://eutrophicationwatch.users.earthengine.app/view/global-eutrophication-watch

世界中の多くの沿岸域では、人間活動によって生活・産業排水や田畑の肥料などから、窒素やリンなどの栄養分が過剰に供給されています。このような海域では、植物プランクトンが多く増殖し過ぎることで赤潮が起きたり、生産された有機物が底層で分解されることによって水中の酸素が少なくなったりして、環境の悪化をまねくことが知られており、この現象は人為的な富栄養化と呼ばれています。しかし現状では、このような人為的な富栄養化はモニタリングを行っている地域でだけ把握されており、他の海域の状態はわかりません。そこでCEARACは、地球規模で沿岸域の富栄養化の可能性(CEP)を評価するGEEベースの「Global Eutrophication Watch」ツールを開発しました。

このツールでは、衛星画像から得た2003年~2020年までのクロロフィルa濃度を分解能4kmで地図上にプロットし、地球全体での予備的CEP判定を行います。一方、北西大西洋地域では、2003年~2020年までの分解能1 kmのデータを使いCEP判定を行います。分解能が小さいデータを使うことで、特に黄海及び東シナ海のクロロフィル濃度の推定精度が向上しました。

Global Eutrophication Watch では、蓄積された地球全体の海洋や大きな湖の表層の植物プラ ンクトンの量(クロロフィル a 濃度)を、「H-多い・L-少ない」と「I-増加・N-変化なし・D-減少」を組みわせた6つの類型に分けます。この類型によって、地球全体の海域のどこが、富栄養化(LI、HI)または貧栄養化(LD、HD)しているのか、あるいは富栄養化(貧栄養化)する傾向にあるのかを予備的に判別することが可能であり、詳細な調査の必要性を検討するための指標になります。

この世界初のツールは、衛星データから得たクロロフィルa濃度値のみを使いGEEで即座に計算する機能を持っていますが、ユーザーが自由にクロロフィルa基準値や変化傾向を確認する期間を設定できます。また、デッドゾーン(貧酸素の状態になっている地域)のような顕著な富栄養化の兆候を示す地域や、富栄養化に関する情報がゼロまたは少ない地域を効果的に把握できます。例えば、2つの地図を比較すると渤海で水質が改善されたことがわかります(図1)。さらに、貧酸素も把握できます。日本の沿岸域では長年富栄養化が問題であったため、人為的に栄養分の供給を減少させていますが、最近はむしろ魚類生産などの減少が起きていることから、逆に貧栄養化している可能性が指摘されています。

Global Eutrophication Watchを活用して富栄養化(貧栄養化)が世界のどこで起きているかを知ることは、SDGs のゴール14「海の豊さを守ろう」の達成に貢献する重要な役割も果たします。

このツールを基に出来上がったCEPマップは、富栄養化の兆候や傾向だけでなく水質に関する情報も示しており、沿岸域の管理担当者に適切な管理策を検討するために必要な情報を提供しています。

図1.Global Eutrophication Watch の画面。渤海での沿岸域富栄養化の可能性(CEP)を示す地図。LD、LN、LIはクロロフィルa値が低く(α < 5 mg m–3)、それぞれ「減少」「変化なし」「増加」の傾向を示す。反対にHD、HN、HIはクロロフィルa値が高く(α ≥ 5 mg m–3)、傾向はそれぞれ「減少」「変化なし」「増加」である。 a 1998~2015年のCEPの予備的評価 b 1998~2019年のCEPの予備的評価 (a) 左上の紫色で囲った部分は渤海の位置を示す。(b)

結果がNature Communications(オンライン)に掲載されました(2021年10月22日)DOI: 10.1038/s41467-021-26391-9

GEEアプリは以下を参照のこと https://eutrophicationwatch.users.earthengine.app/view/global-eutrophication-watch

 
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